飲食店の人件費を削減するには?考え方や具体策、注意点を徹底解説

2020年6月15日


飲食店を経営している場合、さまざまなコストを抑えながら売上を上げていくことを目標にしている人が多いでしょう。
そしてコストの中でもなかなか削減しにくいのが「人件費」ですよね。
人件費は誤った削減方法をしてしまうと従業員のモチベーションを下げることに繋がり、結果として至る所で悪影響を及ぼすことがあります。

そこでこの記事では、飲食業界における人件費とは何か、また具体的な削減方法などをご紹介します。

飲食店経営における人件費とは?


はじめに、飲食業界における「人件費」についてご説明します。

人件費=売上の30%に抑えるのは間違い?

飲食店を始めようと考えている人は「人件費は売上の30%以内に抑えると良い」などと耳にしたことがあるかもしれません。
しかしこれを真に受けてしまうと、経営に失敗するおそれがあります。
これはあくまで目安として捉えることが重要です。

そもそもどんな飲食店を経営するかによっても、人件費を減らすべきか否かは異なります。
飲食店経営における人件費がどんなものなのかを理解しておく必要があるでしょう。

人件費よりも「FLコスト」を重視しよう

飲食店を経営するにあたり重要な指標の1つである「FLコスト」をご存じでしょうか。

「F」は「Food(食材費)」、「L」は「Labor(労働=人件費)」を指します。
そして飲食店経営では、このFLコストを「売上の60%以内」に抑えることが基本とされているのです。
食材費と人件費をともに30%を目安にすることで全体のFLコストが考えやすくなるため、前述のような「人件費=売上の30%」という言葉が生まれました。

しかし、「なんとか人件費を売上の30%に抑えなくては」と考えすぎて食材費を30%までしか使わないと、高級志向の飲食店は高級食材が使えなくなってしまいます。
反対に単価の安い食材をメインに使用し顧客の回転率を高めることで売上を上げているお店は、食材費よりも人件費に投入すべきだといえるわけです。

こうしたことから、飲食店の業態によって適切なFLコストを考えていくことが重要だといえます。

人件費を管理するときの基準と計算方法


飲食店の人件費を管理する際に、考えなければならない基準がおもに4つあります。
これらを簡単に計算できる会計ツールなども存在するため、作業効率を高めるためにぜひツールを導入することも検討してみてくださいね。

人時売上高

1時間あたりの労働時間でどれだけ売上を上げられているかを示した指標です。

● 計算方法:人時売上高=その日の売上金額÷その日出勤している全従業員の労働時間

例えば、1日の売上金額が「20万円」だったと仮定します。
その日「8時間労働の従業員が5人」出勤していた場合は「20万円÷(8時間×5人)=5,000円」となるわけです。
人時売上高は4,000円以上が基準とされています。

労働生産性

労働生産性とは、従業員1人あたりが生み出す成果を表した指標です。

● 計算方法:労働生産性=粗利高÷換算人員

換算人員とは、さまざまな雇用体系の従業員がいる場合、全員フルタイムで働いてもらったと仮定した人数のことをいいます。

具体的な例を挙げると、週40時間働いている正社員が3人、週20時間働いているパートが2人いると考えてください。
「週40時間×3人」と「週20時間×2人」で合計160時間の勤務時間となります。
そして正社員の週40時間を基準として考えるため「160時間÷週40時間」でこのお店の換算人員は「4人」となるわけです。

そして粗利高が210万円だったとすると「210万円÷4人=52万5,000円」という計算になり、労働生産性が「52万5,000円」だということが分かります。
労働生産性の基準値は「50万円以上」といわれているため、このお店は正常値だといえるのです。

労働分配率

労働分配率とは、粗利高に占める人件費の割合をいいます。

● 計算方法:労働分配率=人件費÷粗利高×100

これはつまり、お店が新しく生み出した付加価値のうち、どのくらい人件費に分配されたのかを示す指標です。

例えばお店の粗利高が210万円で、人件費に100万円かかっているとしましょう。
「100万円÷210万円×100」となり、このお店の労働分配率は「約47.6%」と分かります。
しかし、労働分配率の基準値は「40%以下」だといわれているため、もう少し人件費を減らす必要があると分析できるわけです。

この指標をもとに人件費をどうにか80万円まで減らせた場合は「80万円÷210万円×100=約38%」となり、基準値の40%以下に収まります。
こうした指標は、現時点で人件費が多いのか、少ないのかを判断するために用いられるため覚えておきましょう。

平均時給

正社員やパートなど、雇用体系にかかわらず従業員1人1時間あたりの時給を示しています。

● 計算方法:平均時給=総人件費÷想定労働時間

これまでの具体例を用いてご説明すると、このお店には正社員3人、パート2人がいて1週間で合計160時間の労働時間があります。
それが4週分で「1ヶ月あたり640時間」となりますね。
また総人件費が80万円だとすると「80万円÷640時間=平均時給1,250円」となるのです。

平均時給の基準は「1,200円以下」が良いといわれているため、少々オーバーしている状態だといえます。

飲食店の人件費を削減する際の注意点


前述で適正な人件費を保てているかを分析する指標を4つご紹介しましたが、分析の結果、人件費を抑えなくてはならないお店もあるかもしれません。
たしかに経営を安定させるためには人件費削減に取り組むことが大切です。
しかし闇雲に人件費を削減すると、次のような状態に陥る危険性があるため注意しましょう。

給与を下げるだけでは従業員から不満が出る

まず、「人件費削減をするには給与を減らせばいい」という考えで行動すると、従業員から不満の声が上がります。
給与を減らすならば従業員の仕事量も合わせて減らす必要があるでしょう。

しかしこの方法では短い期間で人件費を削減できるものの、長い目で見ると従業員のモチベーションを下げ作業効率までも落としてしまいます。
さらに従業員からの信頼も失いかねません。
こうしたことから、人件費削減を目指して単純に給与を下げることはおすすめできないといえるでしょう。

人を減らすだけではお店が回らない

人件費削減のために、有能な従業員だけをお店に残し、あまり仕事ができない従業員を解雇することもあるかもしれません。
そうすることで解雇した人数分の人件費を短期間で減らすことが可能です。

しかしこの方法は、残った従業員の1人あたりの仕事量が増えて疲弊させてしまうことが考えられます。
従業員を減らしてもお店を訪れる顧客の数は減らないわけですから、単純に忙しい時間帯などはお店が回らなくなるはずです。
その状態が続けば、いずれ顧客満足度の低下にもつながってしまうでしょう。

従業員が定着せず人材育成に時間がかかる

前述のようにただ給与を下げたり人を減らしたりするだけでは、従業員のなかで常に不満がある状態となります。
その結果、行動力のある人はすぐに辞めてしまいなかなか人が定着しません。
離職率が高ければ、どんどん新規採用をしないと人手不足に陥ります。

こうした悪循環により人材育成に時間がかかっては人が辞めることを繰り返し、非常に生産性が悪いといえるでしょう。
つまり、単純に給与や人を減らすだけでは人件費を改善できたとしても、別の問題が生まれてしまうのです。

飲食店の人件費を削減するための具体策


それでは飲食業界における人件費を削減するためには、どのような策を講じれば良いのでしょうか。
ここでは具体策を5つご紹介します。

シフトの調整を徹底的に行う

まずはシフトの調整を徹底的に行うことを実践してみてください。

例えば「11時〜14時半」と「18時〜21時」にお店が混むことが分かっている場合、この時間に従業員を多く配置します。
そしてお店が比較的空いているであろう時間帯の「9時〜11時」や「14時半〜17時」はシフトを調節して出勤している従業員の人数を減らすわけです。

もちろんその日が絶対に混んだり空いたりするわけではありませんので、従業員数が少ない時間帯にお店が混んでしまうこともあるでしょう。
また、カフェやファミレスなどの業態によっても混雑する時間などは異なるため、自分のお店にあった時間帯で調節する必要があります。

こうしたシフト調整が面倒に感じて実践しない人や、もしものために常に従業員を多く配置している人は、人件費の無駄遣いになっていることが考えられるため注意してください。

仕事の作業工程を物理的に減らす

仕事の作業工程を物理的に減らすことで人件費を削減することも可能です。
具体的には「料理の盛り付けを小皿ではなく、大皿に盛り付けるように変更する」ことや「ドリンクバーを導入する」などの対応を行いましょう。

料理の盛り付けを小皿に分けるよりも、大皿に盛り付けた方が工程も少なく早いですよね。
そして使用する食器の数も物理的に減るため、洗い物の作業も軽減されます。

また、ドリンクバーを導入すれば、顧客一人ひとりからドリンクの注文を受けることがなくなるのです。
ドリンクバーの場所に水をセルフサービスで置いておくことで、水が飲みたい顧客は自分で取りに行けます。
こうしたひと工夫で作業工程を減らしてみましょう。

キャッシュレスやセルフオーダーを導入する

近年ではITツールも進化しており、キャッシュレス決済やセルフオーダーなどさまざまなシステムが登場しています。

キャッシュレス決済を導入すれば、お会計時に現金のやりとりもなくスムーズです。
人的ミスも軽減されるため、売上がズレることもなくなるでしょう。
また、セルフオーダーシステムを導入することでホールに配置する従業員の人数を減らすことも可能です。
注文を聞き間違えるミスがなくなり顧客満足度向上につながるでしょう。

オペレーションを見直す

業務効率を改善するためにオペレーションを見直すことで、結果的に人件費削減につなげることもできます。

例えば、調理器具や業務上必要な道具などは定位置を決めておくことが重要です。
道具を使う人によって戻す場所が違えば、次に使う人が「あれはどこにあるの?」と探すことになります。
こうした無駄な時間を減らすためにも道具などの定位置は決めておきましょう。

また、店内の掃除を効率よく済ませるために、できるだけ物は置かないと決めることも大切です。
こうした少しの工夫で業務効率を向上させ、人件費削減にもつなげていきましょう。

誰でも分かるマニュアルを作成する

誰が見ても分かるマニュアルを作成しておくことで、新しく雇った人材を育成する際に役立ちます。
マニュアルを作ることは面倒に感じる人も多いでしょう。
しかし基本的な仕事のやり方というのはあまり変わるものではありません。

新人を育てるときにもマニュアルを徹底的に読んで実践することで、新人にかける教育コストを減らすことが可能なのです。
そのため大変かもしれませんが、一度作っておくことであとが楽になります。

経営者が注意しなければならない「労働時間」について


これまでに人件費の削減方法などを解説しましたが、削減することばかりを考えていると労働基準法などの法律に違反してしまうことがあるため注意してください。

1日8時間、週40時間のルールがある

労働基準法とは、労働者を守るための法律です。
この法律によって労働者の労働時間が「1日8時間、週40時間」と定められています。
これを超える場合、つまり残業をしてもらう場合には経営者と労働者の間で「36協定」を結ぶことが必須です。

また、1日6時間以上8時間未満の勤務をさせる場合には、最低でも45分以上の休憩を取らせる必要があります。
8時間以上の勤務の場合には60分以上です。

こうしたさまざまな縛りの中で、人件費削減とのバランスをみて違法にならないように注意しましょう。
もしも労働基準法を違反していた場合は、世間からの信用を失い「ブラック企業」として名を残すことになってしまうかもしれません。

週単位の変形労働時間制を取り入れるには?

飲食業界のような繁閑の差が激しい業界では「1日8時間、週40時間」を守っていられないことがあります。
こうした場合には週単位の「変形労働時間制」を取り入れることを検討してみましょう。

変形労働時間制とは、週40時間以内であることを前提に1日10時間まで労働時間を延長させて良いというルールです。
これによって比較的余裕のある平日を休みにしたり労働時間を減らしたりして、混雑が予想される土日にたくさん働いてもらうことが可能となります。

ただし変形労働時間制を導入するには条件があるため、気になる人は調べてみてください。

まとめ


この記事では飲食店の人件費について、基準とする指標や計算方法、具体的な策をご紹介しました。

たしかに人件費は経営をしていくうえで大きなコストですが、そもそも従業員がいなければお店を回すことはできないはずです。
そのため人件費を減らすことはもちろんですが、業務効率を向上させたりオペレーションを改善させたりすることで、働きやすい環境を整えることも重要だといえます。

ぜひ今回ご紹介したような策を取り入れて、安定的な飲食店経営を目指していきましょう。

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